ゴミを捨てないことによる住宅のゴミ屋敷化や一人暮らしの若者の自殺。
一見関連のない事柄のように思えますが、元をたどっていくと「セルフネグレクト」というひとつの精神的疾患に行きつくケースが多いです。
この記事を監修した人
- 小西 清香氏
- 整理収納アドバイザー
元汚部屋出身の整理収納アドバイザー。夫の身内6人の看取りや介護をし、生前整理の大切さを痛感。
また看護師時代ICUに勤務し、人の最期もたくさん見てきました。
そんな経験を元に元気なうちから生前整理を!という思いで、片付けと合わせてお伝えしています。
放置すると危険?セルフネグレクトとは?
セルフネグレクトとは直訳で自己放任。
生活を維持する能力と意欲の欠如、極端な自己肯定感の低下、それによる自身の健康や安全を損なっている状態を指します。
「生活を維持する能力」というのは入浴や歯磨き、掃除や洗濯などを通して身の回りを整えること、体の調子が悪ければ病院に行くといったような自分自身の体をケアすることを指します。
自分自身に関心がなくなり、食事や入浴、掃除さえできなくなって家がゴミ屋敷になり、体調を崩した結果、最悪の場合自殺や孤独死につながってしまうのです。
何より厄介な点は、自身に関心がなくなってしまうが故にセルフネグレクトは自覚することが難しく、周囲の人に助けを求められないことにあります。
セルフネグレクトの原因
セルフネグレクトの原因としては「環境」「病気」「個々の性質」の3つが考えられます。
【環境】
核家族化・単身世帯の増加
かつては大人数だった家庭内で培われたコミュニケーション力や社会性は、核家族化の進行によって学ぶ機会が減り、対人関係への苦手意識を持つ人を増やす結果になりました。
また単身世帯も増加している中、人と関わることへのストレスから家族や社会からの孤立が生まれ、社会と上手く関われない自分を責めてしまい、ますます自分の殻に引きこもり、それがセルフネグレクトに陥るきっかけとなるようです。
インターネットの普及
インターネットが普及し、 SNSが発達したことによりコミュニケーションの幅は広がりましたが、同時に家族や友人など大切な方との対面の会話の機会を減らすことにもなりました。
実際の声を聞いて顔を見ることが少なくなり、ちょっとした変化から見えるSOSのサインを感じ取りにくくなったことも原因の一つです。
またネット通販や音楽配信、動画配信などのサブスクリプションの多様化により利便性は向上した結果、その分外出や人と接する機会が大幅に減少したことも理由に挙げられます。
貧困
「きちんと栄養バランスの取れた食事をすること」「体の調子が悪いから病院で適切な治療を受ける」といった健康的な生活を送るためにはある程度の収入が必要です。
しかし、現在の日本では貧困化が問題となっています。
平成30年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円(実質値)となっており、「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合)は15.4%と、ここ数十年高い状態が続いています。(厚生労働省:2019年国民生活基礎調査の概況「貧困率の状況」)
収入が減れば必然的に節約を強いられ生活の質が下がり、必要な栄養が取れなくなる、生活必需品を揃えるのが難しくなるなど、精神的にも肉体的にも辛い状況になります。
そうした環境では「新しく買えないので何でも取っておく」とゴミや不用品をため込みがちになったり、「自分は社会に必要とされていないから」とネガティブな感情を持って身なりや自身の周辺環境に無頓着になるなど、収入が途切れる → 健康的な生活を送れなくなる → 病気になるといった負のサイクルにはまってしまうこともセルフネグレクトの原因になります。
体と心は密接に結びついているもの。
体を悪くすれば心も沈み、自分を大切に感じられなくなるのです。
【病気】
精神疾患・認知症
精神疾患の影響で無気力になりセルフネグレクトにつながる場合がありますが、日本では精神疾患を患う人が増えています。
平成14年時には258万人だった精神疾患を有する総患者数が、平成29年時には419万人にまで増加しています。(厚生労働省:2022年第7次医療計画の指標に係る現状について)
また、20〜40歳の方でも若年性アルツハイマーがきっかけで捨てるべき物の判断が付かなくなる、収集癖や不潔行為が起こるようになるなど、セルフネグレクト状態に陥るケースもあります。
【個々の性質】
生真面目・プライドが高い
「会社の解雇」「家族との突然の別離」など、人生における予測不可能な悲しい出来事に巻き込まれたにもかかわらず、これまで築き上げてきたポリシーや自身の性格が原因で他人に助けを求められないといった悩みを抱え込んでしまう人は、セルフネグレクトに陥ってしまう可能性もあります。
悲しみや苦しみを事前に予測できないように、今は心身共に健康な人であっても「自分はセルフネグレクトなんて状態には陥らない」とは断言できないのです。
遠慮がちである
遠慮がちな方も、セルフネグレクトに陥りやすい傾向にあります。
このような方は問題を抱えていても、「自分の問題に他人を巻き込みたくない」「自分でなんとかしなければ」「人に迷惑をかけたくない」と考えてしまいがちです。
また、このような方は日常生活でも自分より誰かを優先してしまい、自分の気持ちをおろそかにすることが当たり前になっている恐れがあります。
他人に優しく、思いやりを持つのはとても良いことですが、自身の本当の気持ちに耳を傾けるなど自分を大切にすることを心がけるようにしましょう。
セルフネグレクトは若者でも注意が必要
先述した理由を見ていただければわかるように、セルフネグレクトは誰でも陥る可能性がある症状です。
そのため、まだ20〜30代の若者も注意する必要があります。
コミュニケーションはSNSで、買い物はネット通販で、とスマホのみで生活が成り立つようになった世代だからこそ、他者と比較するケースが少なくなり自身の不調や異変に気付きにくい、また周りからも気付かれにくくなったという観点に加え、セルフネグレクトは自己嫌悪や強い無気力など負の感情が原因。
現代はストレス社会とは言いますが、若者も例外ではありません。
ストレスは比べるものではありませんが、若さが原因で理不尽な目にあったり、ストレス発散の方法が限られることを考えると、若者のセルフネグレクトが増加しつつあることにも納得がいくのではないでしょうか。
また、65歳以上であれば介護保険制度があるため、本人が社会的に孤立していても地域からのコンタクトを取りやすい = 発見されて適切な処置を受けられる可能性が高いですが、65歳未満の方が社会・家族から孤立している場合はなかなか発見されずに孤独死につながりやすいことも手伝って、発散する方法をまだ知らない、プライドが邪魔して誰にも相談できない若者こそ注意が必要と言えるかもしれません。
繰り返しになりますが、セルフネグレクトは全ての年代の方がかかる可能性があるため、当事者・発見者共に恥じずに専門家に助けを求めることが大切です。では、解決に向けて具体的に何をすればいいのでしょうか。
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セルフネグレクトの前兆と解決法
まず大切なのはセルフネグレクトになる前の段階や、原因となりそうな病気を見逃さないことです。
【セルフネグレクトの前兆】
・外出せず引きこもりがち
・入浴、洗濯、掃除など、身の回りに気を遣わなくなってきた
・食事の栄養バランスや回数を気にしなくなった
・生活リズムが乱れている
・家族、友人、恋人がいない、もしくはいても会おうとしない
・何事にもやる気が出ない
【セルフネグレクトの原因となる代表的な病気】
①認知症
物忘れなどから生活能力が低下してセルフネグレクトになる場合があります。
介護家族の急病など、介護体制の変化があったときに顕在化することがあります。
②うつ病
意欲低下が続くと生活に関わる活動全般が億劫になり困難になってしまいます。
症状等から人を避けるようになり、孤立化しやすくなります。
③統合失調症
いわゆる陰性症状・認知機能障害という生活面の障害から、生活能力・活動意欲などが低下します。
④発達障害(ASD・ADHD)
これらは生活技能(ライフスキル)の困難が多く、リスクが高いです。
ADHDでは集中困難から部屋が散らかり、いわゆる「ゴミ屋敷」になるリスクがあります。
ASDは「対人関係や社会的なやりとりの障害」「こだわり」から孤立し、生活困難が悪化する場合があります。
当てはまっているからといって必ずしもセルフネグレクトに陥るとは言い切れませんが、注意するに越したことはありません。
身近な方がこれらの前兆を見せている、またはセルフネグレクトと思われる症状が見られる場合には解決法として以下のことに気を付けましょう。
【セルフネグレクトの解決法】
自覚
まずは自身が危険な状態にあることを自覚してもらうことが大切ですが、セルフネグレクトは「頼り方がわからない」「自分が危険な状態にあることに気づいていない」など周囲に助けを求められないことが特徴として挙げられるため、周囲からのサポートが不可欠です。
周囲のサポート
家族や友人、その他の大切な人が困っているように感じたら最寄りの支援センターに支援をお願いするなど、適切な形でサポートすることが大切です。
セルフネグレクトは一人ではどうしようもできないからこそ、周囲の方々の優しい目線と行動が何より解決の糸口になります。
支援センターの専用相談窓口や病院を介して専門家に状況を調査してもらい、適切な方法を判断・アドバイスしてもらうことで解決を目指すことも可能です。
ただし、サポート対象の方が他人への不信感を抱えており、他人からのサポートはかえって迷惑に感じる場合もあるなど、事情によっては逆効果になることもあるため、どうすればその人の気持ちが楽になるのかを本人と共に考えるのもサポートの一環といえます。
適切な治療
沈んでしまった心を引き上げるのは自身では難しいもの。
そのため、精神科や心療内科などで適切な治療を受けて健康な心を取り戻すことも大切です。
強いストレスが原因にある場合でも専門家に相談することで突破口が見えてくるかもしれません。
また、かかりつけの病院があることで、精神的に安心できたり、治療後のセルフネグレクトが再発する前に定期的な診断で予防できるなどのメリットもあります。
片付け
個人差はありますがセルフネグレクトとゴミ屋敷はほぼセットで発生する問題です。
気持ちが持ち直してきたら、少しずつ部屋の片付けも行っていきましょう。
片付けをする際は最初から無理をせず、ゴミ袋を買う、一日一個ゴミを捨てるなど、自身に負担の少ない簡単なことから始めてみるのもおすすめです。
小さな片付けを習慣化することで、少しずつ部屋が綺麗になっていくはずです。物のついでではありませんが、ゴミの処分とあわせて模様替えをして気分転換するのもおすすめです。
セルフネグレクトにならないための対策法
先述した解決方法があるとはいえ、そもそもセルフネグレクトにならないことが理想です。
最後に対策方法をご紹介します。
自分の良い所を見つける
自分に自信がなかったり、自分はダメな人間だと思い込んでいたりする人は多いかもしれません。
自分の良い所や今日頑張ったことを小さなことでもいいので見つけてみましょう。
辛い環境で我慢しないこと
心は生活環境やライフスタイルで変わります。
職場や今置かれている環境に耐えきれず心が折れてしまいそうになったら思い切って環境ごと変えてしまうのも手です。
生活環境が変われば心も変わるものです。そこからさらに苦しむこともあるかもしれませんが命あっての物種。
時には周囲に頼りながらも自分の身を守ろうとすることは悪いことではありません。
辛さを吐き出すこと
特に若い方々に多い傾向ですが「弱みを見せるのは恥ずかしい」「自分ひとりの問題だから」とプライドに邪魔されて本音を出すのが難しいことも多いかと思います。
しかし、自分が抱えている辛さを吐き出すことは悩みの解決に不可欠です。
家族、友人、恋人といった自分の身近な存在はもちろん、カウンセラーなどの専門家に頼るのもいいかもしれません。
どうしても誰かに相談することが難しい場合は、ノートやメモ帳に抱えている悩みや自分の素直な気持ちを吐き出すのも効果的です。
言語化することはストレス解消にもなりますし、言語化することで悩みや気持ちを解決するような気づきを得られるなどのメリットもあります。
周囲からの配慮
セルフネグレクトに陥っている方々は、自身の不調に気が付いていないケースも多いです。
そのため、周囲からの配慮と適切な対応が、大切な方の命運を分けることも多いです。
家族は安否確認アプリなどを活用した定期的な連絡、友人から「覇気を失くして塞ぎこんでいる」「急にネガティブな発言が増えた」など良くない兆候を感じ取った際には注意深く見守り、助けを求められるまで辛抱強く待つなど、周囲の方々からの適切なサポートが大切な方の何よりの助けになります。
まとめ
セルフネグレクトは年齢にかかわらず、誰もが発症する可能性があります。
そのうえ自力での対処は難しいことから、「周囲の人々に頼る」「辛いときには環境を見直してみる」ことを日頃から意識しておくことが大切です。
当記事の『セルフネグレクトの前兆』に心当たりのある方は、一度ご自身の気持ちや悩みに向き合ったり、病院を受診してみるのもおすすめです。
自分自身はもちろん、あなたの大切な方も例外ではありません。
様子がおかしかったり、無気力になっている場合はさりげなくサポートしてあげましょう。
いざというときにはすぐに対応できるように周囲の方々とは有効な関係を築いておきたいものです。
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