亡くなった方に借金があった場合、相続放棄をすれば債務を相続する必要がなくなります。
しかし、相続放棄後は遺品整理ができなくなったり、資産価値のある財産を引き取れなくなったりするなどの問題を理解したうえで相続放棄を選ばなければいけません。
今回は、相続放棄によって発生する問題や、相続放棄前後にやってはいけないことについて解説いたします。
この記事を監修した人
- 小西 清香氏
- 整理収納アドバイザー
元汚部屋出身の整理収納アドバイザー。夫の身内6人の看取りや介護をし、生前整理の大切さを痛感。
また看護師時代ICUに勤務し、人の最期もたくさん見てきました。
そんな経験を元に元気なうちから生前整理を!という思いで、片付けと合わせてお伝えしています。
相続放棄とは?
法的トラブルの相談窓口を開設している法テラスでは、相続放棄とは「相続人が、被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のこと」と説明されています。
*参考サイト
【「相続放棄とは何ですか?」日本司法支援センター 法テラス】
もし被相続人が大きな借金を抱えていた場合、相続放棄をすれば借金の返済義務がなくなります。 相続放棄を申し込む場合は、相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所へ手続きを行う必要があります。この期間は熟慮期間と呼ばれます。
何も手続きをせずに3カ月が過ぎると、自動的に借金などの財産をすべて相続します。
自動的に故人の財産を相続することを単純承認と呼びます。
相続放棄をする場合は以下の点に注意しなければいけません。
遺品整理ができない
相続放棄は被相続人のすべての資産を放棄します。
つまり借金だけではなく、資産価値がある物も引き継げません。
被相続人が孤独死した場合など例外はありますが、借金だけ相続せず、価値のある資産だけを選んで相続することはできません。
相続放棄を撤回できない
相続放棄が受理された後は、相続放棄後に新たな遺産が見つかっても、相続放棄の取り消しができません。
相続放棄をする前は、期限の中で本当に見逃していない遺産がないか財産目録を作成して確認するとよいでしょう。
相続放棄で債務は消えない
相続放棄をしても債務そのものはなくなりません。
相続放棄とは、遺産相続の権利を次の相続人に回す行為なのです。
例えば、被相続人の第一順位の相続人が相続放棄をすると、第二順位の相続人に相続が引き継がれます。
つまり、親族の誰かに債務を引き渡してしまう恐れがあります。
そうした事態を防ぐためには、相続放棄前にあらかじめ親族同士で相談が必要になるでしょう。
相続すべきか放棄すべきかの意見は各々で異なるため、全員が納得できるよう互いに気持ちを汲み取ながら決める必要があると筆者は考えます。
相続放棄の前後にやってはいけないことは?
相続放棄を予定している場合、財産を何らかの形で処分したり、消費したりしようとすると、その財産を相続する意思があるとみなされ、相続放棄ができなくなります。
相続放棄の前後にやってはいけないことを、具体例を挙げて紹介します。
相続について考える前に行動してしまいそうなことばかりですので、注意しましょう。
被相続人の預貯金の引き出し
故人の名義の口座から預金を引き出したり、口座を解約すると相続財産を処分したとみなされ、相続放棄が認められなくなります。
相続放棄を検討している場合、預貯金の対処は先延ばしにしておきましょう。
もし預貯金を引き出してしまっても、使用していなければ消費行為に当たりません。
賃貸住宅の解約手続き
故人が賃貸住宅に住んでいた場合、大家さんや管理会社より退去を求められます。
しかし、賃貸契約を解約してしまうと故人の「賃借権」という財産を処分したと判断されてしまいます。
もし大家さんや管理会社から家賃の未払いによって一方的に解約された場合は、相続人が自らの意思で解約をしたと判断されないため、単純承認に該当しません。
遺品の処分
相続放棄を予定している場合は、やむを得ないときを除き、遺品整理を行ってはいけません。
相続財産を自己判断で処分したとして、相続放棄を申し込めなくなります。
マンションやアパートの退去準備として遺品整理を進めたい場合でも、大家さんや管理会社に相談して遺品整理を先延ばしにしてもらう必要があります。
遺品整理では洋服や文房具など、資産価値のない品物も整理します。
資産価値がない物や流通性がない物は、形見分けや処分をしても単純承認とみなされません。
ただ、中古状態でも流通性がある貴金属や高級ブランド品、家電などは場合によっては単純承認と判断されてしまう場合があります。
少しでも資産価値があるかもしれない品物は安易に整理しないほうがよいでしょう。
単純承認に該当しそうな遺品は、保証書や査定書など、価値を証明できる書類を揃えておきましょう。
入院費の支払い
亡くなった後に入院費の請求書が届いた場合、入居費を相続財産から支払ってしまうと財産を相続したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続した財産ではなく、相続人自身の財産から支払った場合は相続した財産を消費していないと判断され、問題なく相続放棄ができます。
限定承認
相続放棄をした後でも、限定承認の手続きをすればプラスの財産を相続できます。
限定承認とは相続したい不動産や引き継ぎたい大切な品物がある時によく使われます。債務が財産を上回っていても、債権者に遺したい品物の金額を支払えば手元に残せます。
例えば、500万円の借金と100万円の価値のある指輪を相続する場合、指輪分の100万円を支払えば指輪を相続できます。
不動産や遺品などを親族一同でどうしても残しておきたい場合に限定承認が利用されます。
しかし、限定承認は相続放棄と同様、3カ月以内に申請する期限や、相続人全員が手続きをする必要性、清算手続きなどの条件が多いため、単純承認よりも時間や手間がかかります。
また、準確定申告が必要になる場合もあるため、相続後も手続きの義務から解放されません。
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財産の管理義務
2021年の民法改正によって、相続を放棄された不動産の管理義務は、相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人が負うように定められました。
例えば相続放棄をした実家が倒壊し、近隣住民に迷惑をかけてしまった場合は、放棄をした相続人が補修や清掃を行わなければいけません。
*参考サイト
【「財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)」法務省】
もし管理義務を負いたくない場合は、家庭裁判所へ申し立てて相続財産管理人を選任します。
相続財産管理人は親族全員が相続を放棄したときだけでなく、身寄りのない方が亡くなったときにも家庭裁判所より選任されます。
しかし、相続財産管理人の申し立てには予納金が掛かるため、固定資産税や管理費用を支払ったほうが費用を節約できる場合があります。
相続放棄をする場合は周囲に相談を
「遺族が借金を残していたから」「財産の管理ができないから」などの理由ですぐに相続放棄を決断しないようにしてください。
相続放棄をすると遺品整理はできません。また、負債を抱えていた場合は借金が相続人に移るだけで、借金そのものは消えません。
相続放棄は親族一同で検討し、進めていく必要があります。
遺品整理業者や弁護士など、専門家の意見を参考にしながら進めるのも一つの方法です。
親族にまったく相談せず、自己判断で相続放棄を進めるのは絶対に止めましょう。
まとめ
相続放棄をすれば故人の負債を相続しないで済みますが、資産価値がある遺品を引き取れなくなります。 また、故人が亡くなった後に行う行動によっては、相続財産の処分や消費行為にあたると判断されて相続放棄ができなくなる場合があります。 相続放棄を検討される場合は、専門家の意見も参考にしながら進めましょう。 今回の記事によって少しでも相続放棄に関する知識が深まりましたら幸いです。