ネグレクトは「無視する」「世話を怠る」という意味です。
セルフネグレクトを直訳すると「自分自身の世話を怠る=自己放任」、つまり、自分自身の健康や生活への関心がなくなり、自己管理がおろそかになる状態を指します。
些細なことがきっかけで発生し、無気力で生きる意欲が低下するため、悪化すると命に関わる危険があります。
誰にでも起こり得る問題ですが、自分自身でSOSを出さないため、周囲の人が働きかけてサポートしないと改善することが難しいです。
当コラムでは、セルフネグレクトの概要と原因、初期症状、予防策、セルフチェック方法についてまとめています。
もし「自分や身近な人がセルフネグレクトかもしれない」と心配されている方は、ぜひこの記事をご覧ください。
この記事を監修した人
- 小西 清香氏
- 整理収納アドバイザー
元汚部屋出身の整理収納アドバイザー。夫の身内6人の看取りや介護をし、生前整理の大切さを痛感。
また看護師時代ICUに勤務し、人の最期もたくさん見てきました。
そんな経験を元に元気なうちから生前整理を!という思いで、片付けと合わせてお伝えしています。
セルフネグレクトとは
健康と安全を脅かすセルフネグレクトとは?
セルフネグレクトは、意欲の低下によって日常生活に支障をきたし、自らの健康や安全を脅かす状態になることです。
やる気がなくなり、自分自身に対して無頓着になることが特徴です。
具体的な例として、掃除や洗濯、ゴミ捨てなど身の回りのことを放置し、部屋がゴミ屋敷や汚部屋になることがあります。
さらに、「○○がしたい」「△△が欲しい」といった欲求もなくなり、日常生活において自己のニーズやケアを無視する傾向が見られると、セルフネグレクトの兆候が疑われます。
これらのサインに気づいたら、早めに対策を考えることが重要です。
セルフネグレクトになると……
・自分自身への関心がなくなる
・無気力になる
・対人関係が希薄になる
高齢者だけでなく若者にも広がるセルフネグレクトの現状
内閣府が平成23年3月にまとめた「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査 ― 幸福度の視点から」の報告書によれば、平成21年時点で、全国におけるセルフネグレクト状態の高齢者は、推計で9,381~12,190人(平均値 10,785人)にのぼるとされています。
一方、若者のセルフネグレクトに関するデータは、一般社団法人日本少額短期保険協会による「第6回 孤独死現状レポート」で報告されています。
孤独死者は年齢層が低いほど自殺者の割合が高くなっているのがわかります。
2021年6月時点の報告によれば、20代までの孤独死者のうち自殺者の割合が26.5%にも達しています。
若年層の孤独死人数は高齢者よりも少ないものの、自傷行動の傾向が強く、これに対するケアや対策は、同じセルフネグレクトでも高齢者とは異なるアプローチが求められます。
セルフネグレクトになる原因
セルフネグレクトは高齢者だけでなく、誰もが陥る可能性があります。
内閣府の調査結果をもとに、その発生原因を探ってみましょう。
身体機能の低下・病気や後遺症の影響
老化や病気、事故によって身体機能が低下し、日常生活での掃除や片付けが困難になったり、視力や筋力が低下して生活の質が悪化し、家事がおろそかになることがあります。
さらに、脳梗塞やリウマチなどの病気やそれらの後遺症が家事能力に影響を及ぼすこともあります。
これにより、本人は普段通りの生活を望んでいるにもかかわらず、家事を充分に行うことができなくなることがあります。
調査によると、「セルフネグレクトになったきっかけ・理由」の中で、「疾病・入院など」が24%を占めていることが明らかになっています。
判断力の低下
認知症や精神的な疾患、依存症などもセルフネグレクトの原因と考えられています。
認知症によって意欲の低下やゴミなどを収集する不潔な行動が見られたり、配偶者との死別や失業、いじめなどの精神的なショックを受けて意欲が著しく低下したりすることがあります。
認知症でなくても、普段と違う行動が見られる場合は、うつ病や統合失調症などの精神疾患、アルコールや薬物の依存症を疑ってみる必要があります。
これらもセルフネグレクトにつながる一因です。
報告書の「日常生活自立度」によると、セルフネグレクト状態の高齢者の過半数が認知症と報告されています。
経済的な困窮
高齢者が困窮する理由は、貯金が不足し年金だけでは生活が苦しいことや、認知症などによってお金の管理が難しくなることが挙げられます。
若年層の場合、失業や離婚、病気などが生活困窮の主な要因とされています。
経済的な困難に陥ると、食事や洗濯の手入れがおろそかになったり、医療機関を訪れなくなったりして健康が損なわれる可能性が高まります。
さらに、医療保険に未加入であれば医療費の負担が大きく、治療を受ける意欲も低下するでしょう。
心身の健康が損なわれると、社会との接触が減少し、セルフネグレクトにつながるリスクが増大します。
社会的に孤立している
配偶者との死別や離婚、退職、失業などが原因で、社会的に孤立する人も少なくありません。
社会的な孤立状態では、セルフネグレクトに陥っていることに気づきにくく、他人からの指摘も受けにくいため、問題がエスカレートすることがあります。
また、引きこもり状態の人もセルフネグレクトに陥りやすいと考えられます。
高齢の親に依存する「中高年の引きこもり」が社会問題化していますが、親が亡くなったあとに経済的な困窮に直面する人が頻出するのではないかと懸念されています。
将来的に自身も高齢になり、身体機能や認知機能が低下し、セルフネグレクト状態に陥るリスクがあることも考慮されます。
原因・きっかけは不明
調査によると、「覚えていない・分からない」と回答した人が21.5%、「特にきっかけはない」とした人が15.9%を占めています。
これは、本人が自覚しないままセルフネグレクトに陥っていることを示唆しています。
性別では、女性のほうがセルフネグレクトに陥いる高齢者が多いと報告されていますが、セルフネグレクトと性差の関係性については詳細が明らかにされていません。
家族構成別に見ると、「本人のみの独居」が68.5%を占めており、この状況でセルフネグレクトが進行している場合、孤立死のリスクが高まると考えられます。
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セルフネグレクトの初期症状にみられるサイン
セルフネグレクトの顕著な症状は、「身の回りのことをしなくなる」という点に集約されます。
セルフネグレクトになるとやる気が起こらなくなり、無気力な状態に陥ります。
掃除や洗濯はおろか食事もしない、お風呂にも入らないなど、なにもかもが億劫になり、一般的な生活に支障をきたします。
この状態は少しずつ進行するため、本人には自覚症状や危機感がなく、改善やSOSの発信が困難だとされています。
周囲からは「だらしない」と思われがちですが、実際にはセルフネグレクトの初期症状がみられる場合もあります。
セルフネグレクトの初期症状にみられるサイン
・食器を片付けなくなる
・買ってきた物や脱いだ服を床や机の上に置きっぱなしにする
・掃除や洗濯の頻度が極端に少なくなる
・シャワーや入浴の回数が減少する(4~5日に1回程度)
・ゴミ出しをしなくなる
セルフネグレクトの特徴
・身体と住環境が不衛生な状態になっている
・栄養状態が悪い
・医療やサービスを拒否する
・服薬の管理ができない
・ゴミを溜め込む
社会問題として大きく注目されている「ゴミ屋敷」も、セルフネグレクトに起因していると考えられています。
ゴミ屋敷の実態は明らかになっていませんが、高齢化による健康上の問題や体力の低下、認知症やうつ病などが原因で片付けができなかったり、ゴミや不用品を収集したりして住環境が悪化する場合があります。
セルフネグレクトが進行すると、対人関係が希薄となり、家族や友人からのサポートを拒むようになる人もいます。
セルフネグレクトは自らの健康や安全を脅かす危険があるため、特に一人暮らしの場合は孤立するリスクが高まることが懸念されます。
しかし、本人が周囲や行政の支援を受け入れない場合、介入が難しいのが現状です。
セルフネグレクトから脱け出すには
セイルネグレクト状態からの脱出をサポートするには、適切なサービスを利用したり、第三者に相談することから始ましょう。
その前に、まず本人の思いに耳を傾け、信頼関係を築くことが大切です。
決して発言や行動を否定せず、受け入れる姿勢を持ちましょう。
本人が心を開いてくれれば、ゴミを溜めたりサポートを拒否したりする理由について話し始め、提案を受け入れてくれる可能性が高まります。
焦らず時間をかけて、丁寧にサポートすることを心がけましょう。
地域包括センターなどの相談窓口に相談する
各地域には、セルフネグレクトの問題に対応するための相談窓口が設置されています。
セルフネグレクトの高齢者の中には、介護が必要な状態にもかかわらず要介護認定を取得していない人が相当数いると言われています。
セルフネグレクトは悪化すると深刻な問題になるため、早期に適切な対応が必要です。
相談窓口を利用することで、状況の改善を図ることができます。
全国の自治体に設置されている「地域包括支援センター」は、誰でも無料で相談できる窓口です。
ここでは、要介護認定の相談や申請手続きをサポートしてくれますので、ぜひ利用してください。
【セルフネグレクトの相談窓口】
・各市区町村の役所に設けられた福祉課
・各地域の在宅介護支援センター
・各地域の福祉事務所
・各地域の民生委員
・地域包括支援センター
・精神科や心療内科などの医療機関
・在籍する学校のカウンセリングルーム(学生対象)
など
認知症など疾患がある場合は医師に相談する
身体的な疾患や認知症、精神疾患がある場合は、まず医師に相談することが重要です。
症状の改善や進行の遅延、緩和を目指す治療が行われる可能性があります。
専門家の意見を受け入れやすい場合も多く、治療やリハビリのための通院や入院が、セルフネグレクトからの脱出のきっかけとなることもあります。
専門家とともに今後の生活について家族で話し合い、必要なサポートを検討しましょう。
介護サービスを利用する
介護認定を受けることで、訪問介護や入浴介護、デイサービスなどの介護サービスを利用することができます。
これにより衛生状態が改善され、自立した生活に向けた一歩を踏み出すことができます。
掃除や食事などの家事サービスは対象外ですが、他人との接点が増えることで、積極的な利用が望まれます。
セルフネグレクト状態の高齢者の中には、条件を満たしているにもかかわらず介護認定を受けていない人も少なくありません。
地域包括支援センターに相談すれば、要介護支援の申請を代行してもらうことも可能ですので、ぜひ相談してください。
第三者の力を借りる
特別な疾患がなく、他者のサポートを受け入れる場合は、第三者の力を借りて溜めたゴミを片付ける方法もあります。
家族や親族、友人の力を借りれば費用も抑えられ、片付け以外に精神面でのサポートも受けられます。
手間をかけずに迅速にゴミを処分したい場合は、ゴミ屋敷片付けや不用品回収の専門業者を利用するのも一つの手です。
多くの業者は、ハウスクリーニングや消臭作業、リフォームなども一緒に行ってくれるので、家の中の整理やメンテナンスについても相談できます。
日常的な家事が困難な場合は、家事代行サービスや食事の宅配サービスの利用がおすすめです。
最近では、民間のサポートサービスも非常に充実していますので、生活の維持や改善に向けてこれらのサービスをうまく活用しましょう。
セルフネグレクトの自己診断チェック
原因がわからないままセルフネグレクトに陥り、少しずつ悪化するケースも少なくありません。
最大の防止策はセルフネグレクトの兆候を自覚することです。
まずは、自分が予備軍に当てはまらないか自己診断してみましょう。
以上の項目に当てはまる数が多いほど、将来的にセルフネグレクトになるリスクが高いと考えられます。
項目に多く当てはまる場合は、セルフネグレクトの初期症状にすでに陥っている可能性がありますので、心配なら各機関に相談してください。
もし現在、部屋の中にゴミが溜まっていても、自分で片付けや掃除ができる場合は、少しずつ始めましょう。
少しでも不安に感じたら、自分で危機意識を持って取り組むことが大切です。
こうした積み重ねでセルフネグレクトに陥るリスクを回避できます。
【自宅がゴミ屋敷状態の場合】
自分では家に溜まったゴミや掃除ができないほど酷い状態なら、ゴミ屋敷片付けの専門業者や不用品回収業者に相談しましょう。
【高齢者は生前整理を考えるのもおすすめ】
特に高齢者の方は、この機会に生前整理や遺品整理を考えてみてはいかがでしょうか。
家族と話し合って、片付け・整理を進めましょう。
離れて暮らす家族に注意!
高齢化が進む日本では、セルフネグレクトはさらに深刻化すると予想されています。
近所に一人で暮らす高齢者がいれば、地域で気にかけてあげましょう。
遠く離れている親や家族にセルフネグレクトの兆候を感じたら、孤立した生活を送っていないか連絡し、確認してあげてください。
数週間ゴミ出しをしないだけで、部屋には山のようにゴミが溜まります。
夏場には異臭や害虫が発生し、近隣住民からの苦情によって発覚することもあります。
定期的に自宅を訪問したり、ライブ映像で会話をしたりして様子を見ましょう。
すでにセルフネグレクトが悪化した家族がいる場合は、地域包括支援センターや介護サービス、民間サービスなどを活用しましょう。
近所の方がセルフネグレクトになっている場合も同じです。
孤独死や異臭騒ぎになる前に、地域や福祉の窓口に相談をし、早めに対処することをおすすめします。
まとめ
セルフネグレクトの原因はまだ多くが不明であり、現時点では有効な予防法や対策、治療法は確立されていません。
日本が超高齢化社会に突入する中で、セルフネグレクトはさらに深刻化することが懸念されており、高齢者だけでなく若者も視野に入れた救済制度や法律の整備が求められています。
この記事では自己診断チェックも掲載していますので、ご自身を含めて、家族や親戚、友人に「もしかするとセルフネグレクトかもしれない」と思いあたる人がいれば、参考にしてください。